2016年9月12日月曜日

【トークの部出演者情報】金武文化堂 新嶋さん

そうこうしているうちに、9月になって、ブックンロールオキナワ開催まであと1ヵ月になりました。これからちょっとスピードを上げて、出演者情報などを更新していきたいと思います。

10月13日(木)19時半〜 那覇・沖映通りのバンターハウスで開催される「ブックンロールオキナワ」、予約受付はこちらから。想定より早いペースでお席が埋まってきています。基本的にはご予約と前売りが優先で、当日券は出ないかもしれませんので、ご希望の方はお早めがよろしいかと思います。

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さて8月の更新では、【ライブの部】にベースで出演される、リブロリウボウBC店の筒井さんについてご紹介しましたが、今回は【トークの部】にご出演の方とお店についてご紹介したいと思います。

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金武文化堂(きん・ぶんかどう)
本島北部の金武町にある、創業50年以上の老舗書店。近くには小学校・中学校があり、子供たちの姿でにぎわう「町の本屋さん」。登壇者は二代目の店主、新嶋正規さん。
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国道329号、キャンプ・ハンセンのゲート、そしてタコライス屋や飲屋街のあるにぎやかな界隈を走りぬけて、金武観音寺の入り口を過ぎたさきに「金武文化堂」はあります。お店ができてから50年以上が経った老舗の書店さん。裏手には金武小学校、もうすこし先には金武中学校があって、本や雑誌、文具、学用品なども扱っている「町の本屋さん」です。



復帰前に発行された雑誌なんかをめくっていると、本屋さんの広告をわりと目にします。お店の宣伝はもちろんなのですが、万年筆や地球儀といったハイカラな商品、そして洋書を扱っていることをアピールしているものも多く、なるほど本屋は知性とセンスの象徴なのだということがよく分かります。金武文化堂も、その品揃えの良さから「金武の山形屋」と呼ばれていたそうです。

ちなみに金武文化堂さんのこの建物は、つくられた当時のままだそうですので、古い建物好き、さらに「トマソン」好きの方はぜひ訪れてくださいね。

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今回、登壇される新嶋正規さんは、お父さんから店を引き継いだ二代目です。地域に密着した本屋でありたいと、店売りはもちろんのこと、学校や図書館への外商、そしてPTA活動、地域のボランティアなどにも熱心に取り組んでおられます。長年のお客さんから頼まれて、新品では手に入らない絶版本などをオークションサイトで取り寄せたり、ときには県内の古本屋に注文して仕入れたりしているそうです。

2014年、沖縄でも「町には本屋さんが必要です会議」、通称「町本会」というイベントが行われましたが、開催を知った新嶋さんも那覇まで足を運んで参加されました。会場では「町の本屋さん」のお一人として発言もされており、そのときの様子は、町本会についての詳細をまとめた『本屋会議』にも印象的に書き残されています。

町本会に参加したあと、新嶋さんは一念発起して、本屋さんを開業したいという人向けの講座に申し込んだそうです。週一回の講座でしたが、会場はなんと横浜でした。毎週、毎週、金武から那覇まで行って(この時点ですでに遠い)、そこからさらに飛行機で横浜へ飛んで、ホテルに泊まって全ての回を受講したそうです。受講者の中で、すでに書店を経営していたのも、もちろん沖縄から来たのも新嶋さん一人だったとか。

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新嶋さんは、お父さんから店を引き継いでからはずっと試行錯誤してきたそうです。お客さんに来てもらうために、本だけではなく、プラモデルやジオラマなど流行っているものも仕入れて売ったし、最近では子供向けの駄菓子を置いたのだとか。いわく「子供が集まってくるのはいいけど、駄菓子の包み紙なんかをあちらこちらに散らかすし、お菓子は仕入れの手間がかかるわりに売上は微々たるものだし。そして、子供があまりにも騒いでうるさいからって、かえって大人のお客さんが遠のいてしまった」

講座を受けながら、新嶋さんは金武文化堂の新しいありかたを模索したそうです。あの、文化財級にレトロな建物も味わいがあるし、お店の東側はゆるやかな下り坂になっていて、その先には美しい海が広がっています。建物の二階で、海の見える大人向けのブックカフェができないか……。

ある日の講座からの帰り道、電車で一緒になった同期の受講生にもカフェのことを話したところ、その人は、新嶋さんにこう言ったそうです。
「うーん、ブックカフェは、子供たちにとって楽しい店なんですかね?」

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金武の子どもたちと、元子どもたちは、金武文化堂のことを「きんぶん」と呼んでいます。
中北部のなかでも、金武町は「基地の街」のイメージがとりわけ強いかもしれません。しかし、キャンプ・ハンセンや訓練場などが町面積の6割を占めてはいるものの、基地周辺とその界隈の繁華街を外れれば、泉とその恩恵を受けた水田が広がっていたり、有名な鍾乳洞もあったりして、自然の美しさのほうが印象に残ります。


またまた余談ですが、沖縄唯一の「有線電話」も金武町にはあります。各家庭に4ケタの番号が割り振られており、ご近所の用事はそれで済ませられるのだとか。(ちなみに電話帳まであって、月額700円で通話し放題)

「きんぶん」には、放課後になると子どもたちがコミックスや駄菓子を買いにきます。何も買わないときもあるし、雨が降っていれば雨宿りに。入り口の有線電話でおばあちゃんに電話をかけ、店内でお菓子を食べながら迎えを待ちます。学校には持って行けないからと、登校のときにお金を預けていき、下校時に受け取ってお菓子を買って帰る子までいるのだとか。

本屋には、いつも店員さんがいるから、迎えのおばあちゃんも安心して孫を待たせているだろうし、お金を預ける子どもたちも、きっとそうでしょう。子どもたちが、お金があっても無くても立ち寄って長居できる場所は、図書館や本屋ぐらいかもしれません。

カフェを構想していた新嶋さんは考えを大きく変えました。大人向けに限ったカフェというだけではなく、子どもも楽しめる店を目指すことにしたのだとか。
「そもそも、食っていくためなら、もっとらくな商売がある。だけど、子どもを大切にしないと意味がない。そのことに気づきました」と、新嶋さんは話します。

私はこの話を聞いたときに、ちょっとだけ驚きました。本屋を続けていて、それが結果的に子どもたちを見守ることになったということは、あるのかもしれないけれど、見守ることそのものが本屋をやる目的とは。

だから店を続けていくために何かをしないといけない。地元密着で泥臭く。
結局、元に戻ったんです。また試行錯誤しないといかない、と新嶋さんは笑っていました。

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新嶋さんは新しい試みのひとつとして、金武文化堂のFacebookとTwitter(@kinbun11k)を始めています。新刊コミックの入荷を知らせる画像がアップされて、親世代となったきんぶんの子どもたちから、たくさんの「いいね!」がつきます。彼らの子どもたちも、きっと放課後は「きんぶん」に行っていることでしょう。本を買いに、雨宿りをしに、待ち合わせのために、用事がなくても。

今回のブックンロールでは、そんな金武文化堂さんの日常と、新嶋さんのチャレンジについてお話をうかがうことができればいいなと思っています。あとは金武町の魅力についても。わたしは、金武の名物「チーイリチー」と「タコライス」が大好きです。


金武文化堂
〒901-1201 金武町金武533
電話・FAX 098-968-2130


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